地の棺(完)
姉の話を聞くと……

悲しい。

寂しい。

喪失感で心に穴が開きそうになる。

でも、人に記憶に残る姉は、わたしが知らない姉で。

記憶の数だけ、新しい姉に会うことができた。

それは、とてもとても嬉しいこと。

涙が出そうなくらいに。



配膳の時は千代子さんも一緒にいるが、後片付けは多恵さんが一人でやっているとのこと。

二人の中で役割が決まっているらしい。

食事の後片付けは多恵さんが一人でするかわりに、千代子さんは屋敷の水回りの掃除は千代子さんの担当、という形で。

屋敷の掃除も、洋室は多恵さん、和室は千代子さんと、徹底してわけてあると聞いて驚いた。

千代子さんは自分の仕事に人の手が入ることを嫌がるそうで、わたしは多恵さんの手伝いをすることにした。

さっそく朝食の食器洗いから取り掛かる。

多恵さんに姉に恋人がいたようだといってみたが、なにも知らなかったと意外な顔をされた。

それらしい人物にも心当たりがないと。

というより、八年も前なので、記憶があやふやだとか。

なにか思い出したら教えるね、と言ってくれた言葉がとても嬉しかった。



部屋の奥にある台所から出て部屋に戻ろうとした時、食卓に初ちゃんの姿があった。

初ちゃんは、今日も淡い水色の着物を身に着けている。

和服が似合うっていいな、なんて思いながら見とれていると、わたしに気づいてた初ちゃんが嬉しそうに立ち上がった。


「蜜花さん! お部屋に伺ったんですが、いらっしゃらなかったので……」


「あ、ごめんなさい。台所で洗い物してたから……」
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