地の棺(完)
「真紀さん……」


少し前まで一緒にいたはずの彼女が、何故こんなことに。

わたしは雪君の制止を振り切って、真紀さんに駆け寄る。

助けなきゃ。

そう思ったから。

でも……


その凄惨な姿を直視できず目を背ける。

口元を抑えたまま後ろに倒れかけたわたしを雪君が支えてくれた。


ガラスの破片が散らばる芝生の上に横たわった真紀さん。

だらりと投げ出された両手の指は、すべて本来とは違う向きに曲がり、所々骨が露出している。

口から流れる大量の血液は、体がびくびくと痙攣する動きに合わせ吐き出され続けた。

恐怖。

今この場を支配しているのはその言葉しかない。

逃げ出したい感情と、真紀さんを放っていてはいけないと思う気持ちが心の中で争う。

でも再び真紀さんを勅使することはできなくて、体は震え、歯がちがちとぶつかり音をたてた。

わたしの両腕を掴み支えてくれていた雪君は、眉間に皺を寄せ、真紀さんを見ている。

この支えがわたしの心を体につなぎとめてくれていた。

その時、勢いよく玄関が開く音がして、シゲさん、快さん、神原さんが飛び出してきた。

三人は真紀さんを見つけ足を止める。
神原さんは顔をそらし、シゲさんは引き攣った顔でわなわなと震え、二人とも見るからに狼狽していた。

しかし快さんは取り乱すこともなく、冷静に真紀さんに近づき、その顔を覗き込む。

真紀さんの体は痙攣も止め、ぴくりとも動かない。
< 57 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop