地の棺(完)
「一体何が……」


神原さんが青白い顔でつぶやくように言うと、シゲさんが苛立ちを露わにしてわたし達を見た。


「おい、なにがあったんだよ」


「いえ。僕たちはガラスの割れる音と悲鳴が聞こえたからきただけです」


雪君は冷静に返事をする。

それが気に入らなかったのか、シゲさんは「くそっ」と毒づき、近くにあった鉢植えを蹴り飛ばした。

ガシャッという音がして鉢が欠け、その音に思わず身を縮める。

怯えたわたしを庇うように、雪君はシゲさんに背を向けた。

でもシゲさんはそれ以上何も言ってこなかった。


「死んでる……な」


快さんは、真紀さんの体の上に自分が着ていたカッターシャツをかける。

真紀さんの顔と上半身は隠れ、苦い症状の快さんはわたし達の前に移動してきた。


「どうですか?」


神原さんが快さんに尋ねる。

快さんは肩をすくめ、首を左右に振った。


「……舌がない」


「舌が?」


二人は深刻な表情で見つめあう。

舌がない……

だからあんなに出血を?

でもなぜそんなことになったの?

わたしはとうとう立っていられなくなって、そのまま地面に座り込んだ。

慌てて雪君が立たせようとしてくれたが、それに首を横に振って断る。

とても立てそうにない。

だって、さっきまで話していた真紀さんが……死んでしまったなんて。

信じられないし、信じたくなかった。

会話を交わしたのはほんの数分の事だったけど、それでも真紀さんがわたしに刻んだ印象はとても濃い。

快さんを好きだといった時のはにかんだ笑顔が頭の中に浮かび、混みあがる涙をこらえることができなかった。
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