地の棺(完)
シゲさんの事が気になり目を向けると、彼は呆気にとられた顔で千代子さんを見ていた。

真紀さんの体がなくなった。

それは真紀さんが生きているから?

わたしは、はっきりと真紀さんの生死を確認していない。

本当にそうなのだろうか?

僅かに芽生えた期待が、胸の中で広がりかけたが……


「いや、それはない」


快さんの非情とも取れる一言で、あっけなく消された。


「なんで言い切れるんだよ」


意外なことに、食いついたのはシゲさんだ。

シゲさんは苛立たしげに、快さんを睨み付ける。


「お前は医者か?
違うだろ?

あいつが死んだなんて、はっきりわかるわけねぇじゃねぇか」


「シゲちゃん。
医者でなくてもわかるよ。

真紀ちゃんは、俺が近づいた時には、もう……」


「うるせぇ!」


シゲさんは激高し、快さんの胸ぐらをつかみ上げる。

そのまま窓のすぐ左横の壁に、体を押し付けた。

あまりにも突然すぎて、誰も止めることができず、ただ息をのんで二人を見つめる。

シゲさんはかなり頭に血が上っているようだけど、対する快さんは抵抗するわけでもなく、悲しそうな目でシゲさんを見ていた。

そのことが、シゲさんの勘に触ったのだろう。

シゲさんは胸ぐらを掴んでいた右手を離し振り上げた。

快さんが殴られる。

そう思った瞬間、わたしは体が勝手に動いた。

シゲさんの手を止めよう、そう思ったのに、感情が赴くまま動いたせいか、シゲさんの腰に激しくタックルする形でしがみ付く。


「なっ……」


一番驚いたのはシゲさん本人だったのだろう。
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