地の棺(完)
バランスを崩したシゲさんは快さんから手を離し、わたしにしがみつかれたまま横に倒れた。

どんっと鈍い音がして、体に振動が伝わる。

この感じはさっき、雪君が助けてくれた時と同じ。

シゲさんが頭をぶつけてしまったのだと気づき、すぐに体から離れた。


「すみませんっ!
あ、あの、大丈夫ですか?」


思ったとおり、シゲさんは床に頭を打ち付けてしまったようだ。

しかし、意識ははっきりしているようで、シゲさんは打った部分に手をあてたまま上体を起こす。


「いってぇ……

なにすんだよっ。この糞女!」


くそ……

いや、でも今のはわたしが悪い。

わたしは床に手をついたまま、頭を下げた。


「ごめんなさい……」



怒鳴られるのを覚悟していたが、予想を反してシゲさんはなにも言わず立ち上がる。

そのまま振り向くことなく、階段を降りて行ってしまった。

残されたわたしに、神原さんが手を差し伸べてくれる。


「あ……大丈夫です。
ありがとうございます」


「よく、止めにはいったね」


神原さんが苦笑する。

わたしも自分の行動に驚いた。


「蜜花さんったら、男性の争いに割って入るなんて……
無茶しないで下さいよぉ!」


多恵さんが、わたしのスカートの埃を払いながら、たしなめるように言う。

快さんに目をむけると快さんは悲しそうな顔で俯いていたが、わたしの視線に気づき顔を上げた。


「女の子に庇ってもらうのも、なかなかいいね」


おどけた口調の快さんだけど、その顔にいつもの明るさはない。
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