門城たぬき/悶代なまずさんの作品一覧

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ルントゥ、通称「ミルクサッカー」。彼女は魔族の母と人間の父の間に生まれた乳吸鬼(ちすいおに、milk sucker)。人間を捕食したり生き血を啜るかわりに、魔法で母乳を吸う特殊個体なのだという。 出会いは曇天の貧民街の路地裏だった。 「あなたって、逃げた奴隷かなにか?」 そこは凶悪な魔族たちに支配され、人間が隷属民や家畜のようにされた暗黒帝国の世界。供出命令で村役人から集められ、人畜オークションで「上級臣民」の家に買われた奴隷奉公の娘サキエ。悪代官の主人が魔族の手下として、同じ人間たちを虐待する地獄の日々に耐えられず(幇助や傍観せねばならないから)、ついに逃げ出したのだった。 「もう耐えられない、耐えられなかった」 淀んだ感情が決壊して流れる涙をキスと温かい舌で舐めとって、彼女は言った。 「涙なんかより、おっぱい飲んでいい?」 (以下、ネタバレあり・予定) 口利きと身代金を支払って身請けしてくれたルントゥの紹介で、サキエはエルフの組合による刺繍と金属細工の工房に勤めながら、ルントゥのメイドとして同居することになる。 ルントゥは伯爵一族の孫娘とはいえ片親が「下層民」である人間種族であることから「忌み子」の境遇でもあり、人間を捕食する必要性のなさから、同じような「中流」身分や生態と立ち位置のエルフや獣人たちなどとはかえって親しいのだという。どうやら家庭事情や社会的な立場にも、彼女なりの複雑さや難しさがあるらしい。 「じっさい、本当に純血やそれに近い魔族なんか少数派だし、エルフとかだって似たようなもんよ。だけど「建前」って世の中じゃ大事だし、そうじゃないと身分制度の利権構造やプライドが維持できないから」 優しさや善良さや美点は、必ずしも救いになるとは限らない。 この魔族統治下の世界では支配種は「恐怖と暴力」が思想と手段、そしてその一部や末端であるルントゥは異端者である(特権を享受しながら暗黒のイデオロギーに反している矛盾がつきまとう)。半分が人間であることから、彼女自身が「狙われる側」でもあり、しばしば人間たちからも「加害者・迫害者の一部」「混血の魔族で人間でない」と怨嗟や憎悪の対象にされる。
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