レンタルな関係。
 
 魔法が解けたように、

 再び流れ出す景色、音。


「次にキスするときは、」


 はねる水しぶき。

 降り注ぐ、夏の光。

 周りの人たちの、チラチラ好奇の視線。


「ちゃんと手入れしとけ」


 この憎まれ口。


「もっと柔らかくないと、味わえねーよ」


 恥ずかしいセリフ。


「それから、もっと上手に催促しろ。ヘタクソ」


 減らない暴言。


「まあ、緊張してそうもいかなかったんだろうけど?」


 ニヤリ顔。からかい口調。


「俺に惚れかかってんだろうからな」


 相変わらずの自信過剰。



 流川の言葉。

 流れ出した時間。

 私の思考も、ようやく動き出し。


「い…言いたいことばっかり言って…」


 ホントに…この男は。

 私の緊張も気合いも、一瞬でパアにしてしまう。


 なのに…不思議なもので。

 流川の言葉も態度も。

 決して不快なものじゃなくなってて。


 むしろ、もう。

 攻撃的に突き刺さるというよりも、

 秘薬みたいに胸に広がって。

 
 全身を、めぐりめぐる。

 ぎゅう…っと、締め付けられるほど。


 自分でも、オカシイくらい。



 でも、流川?

 短いよ。今のキス。

 私が期待してたものよりも。


 流川だって本当は。

 緊張してたんでしょ?

 耳、赤いし。

 ふふん、なんて笑っちゃってるけどさ。


「流川、赤くなってる」

「んなことねーよ」

「でも、耳、赤いもん」

「観客がいたからな」

「ふ、ふんっ」


 私とのキスのせいじゃないのかよ。

 もうっ。



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