イジワル上司に恋をして
「欠陥品かもな」


「これを一体どーすれば……」


アパートに戻ったときには夜の10時過ぎ。
幸い、同じ方向らしい黒川は、まだ残務があったらしくて、わたしは先にそそくさと帰ってきた。

ドサリ、と小さなテーブルに紙袋を置き、ぽつりと漏らす。


『オレは甘いモンはいらねぇ』


残業後に、煙草を咥えたアイツが、嫌なものを見るような目で引き菓子を見ながら言った。
そして、結局、一人暮らしだって知ってるくせに、わたしに3つもバームクーヘンを押しつけてきやがった。


「わたしだって、いくら甘いものが好きでも、5日間のうちにこんなに食べるのは……」


箱を取り出し、賞味期限を眺めて「はぁ」と溜め息をつく。
美味しいと評判のバームクーヘンではあるけれど。由美とは会う約束してないし、すぐに会えるような友達もいないし。

携帯のメールボックスを開く。
一番上にある、既読のメール。差出人は【西嶋光輝】となっている。


【お疲れさま。もう帰れたかな? 鈴原さんの仕事は、きっと週末は忙しいだろうから、週明けでも。また都合いい日があれば、ご飯にでも行こう】。


一番近いうちに、会いそうな人――かも、しれない。
けど、賞味期限短いし、男の人に甘いお菓子ってあんまり聞かないし。
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