【完】私と先生~私の初恋~
助けて…先生
母は目の中にハートマークを浮かべながら、一度も私を見ることなくそう言った。


お世辞にもかっこいいとは言えない23、4歳位のやたらとガタイのいい…今風にいうと明らかにDQNな男は、私を上から下までギロリとした目つきでゆっくり眺めると、


「…………よろしく。」


と、無愛想に挨拶をした。


「………」


私は無言で頷いた。


地獄のような日々が始まった瞬間だった。


母は18歳で未婚のまま私を産み、今まで水商売で家計を支えてきた。


支えてきた…とはいいつつも、家は母の父母から相続した古いながらも一軒家だったので、実質かかっているお金は大したことは無かったらしい。


私が中学生になった頃には、週に1.2回帰ってきて、当面の生活費を無造作にテーブルに置いてはまた出て行く…という生活を送っていた。


どうせ男のところにでも行っているのだろう…薄々はそう感じていたが、まさか急に再婚などと言われるとは思ってもいなかった。


男を紹介された次の日。


男が日中仕事に出かけたのを見計らうと、私は籍を入れるつもりなら構わないが、男と養子縁組をすることだけは絶対に嫌だと母に抗議をした。


名字が変わるのが嫌だった訳じゃなく、ただ単純にあの薄気味悪い男の名字を名乗る事も、戸籍に入る事も嫌だったからだ。


私が一気にまくし立てると、母はニヤニヤしながら「あっそう?じゃあそうするわ♪」とだけ言った。


家庭環境は変わったが、それからも先生とは何も変わらずに、普通にメールをしていた。


もっと早く相談していれば良かったのだが、その当時の私は自分の汚い家庭環境を見られるのが何よりも嫌で、何も変わりない素振りをしていたのだった。


男が一緒に暮らすようになって数ヵ月後。 早いものでもう春休みに入っていた。


母はどこかに出かけ、私はバイトが休み。男も休みだったみたいで、朝からずーっと家に居た。

いつもは朝起きるとリビングに行き、軽く朝食を摂りながらテレビを見たりして過ごすのだが、その日は朝から男が家に居た為、私はずっと部屋に閉じこもっていた。
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