恋のはじまりは曖昧で

わっ。
見た目通りの柔らかな感触で指通りもよく、絡まることがない。
羨ましすぎる。

私の髪の毛は硬いし、多いし若干くせ毛がある。
悪い意味で三拍子揃っている。
色も染めていないので重たい印象になるから、美容院に行った時は必ず髪の毛を梳いてもらっている。
だったら、明るい色に染めろって話なんだけど勇気がなくて。
願望はあるけど、一歩踏み出せないんだよなぁ。

満足して触っていた手を降ろした。

「あの、ありがとうございました」

「どういたしまして。っていうのも変だけど」

「主任の髪の毛、柔らかくて気持ちよかったです」

「何だよ、気持ちよかったって」

田中主任はプッと吹き出して笑う。

「私の髪の毛、硬いから羨ましいです。量も多いし……。髪の毛を染める勇気もないから重たい印象になっちゃって」

何気なく、髪の毛をひとまとめにしていたシュシュを外して触ってみる。
うん、やっぱり硬い。
さっきの田中主任の髪質とは全然違う。

「そうか?」

おもむろに田中主任の手が伸びてきて私の髪の毛を触ってきた。
その瞬間、ボッと私の顔が火が付いたように赤く染まる。

「んー、少し硬いかも知れないけど、痛んでない綺麗な髪の毛だよ。俺が言うのもアレだけど、色は無理に染めなくてもいいんじゃないのか」

そんなことを言われ、私の心臓は飛び出しそうだ。
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