恋のはじまりは曖昧で

「え、それはちょっと嫌です……」

ひと学年に何人かは、そこに顔写真だけがぽっかりと浮かび収まっていた。
それを見るたびに集合写真を撮る時は絶対に休みたくないって思っていたのを思い出した。

「冗談だよ」

私が顔を引きつりながら答えると、田中主任はクスクス笑いながら前髪をかきあげる。
その仕草がすごくセクシーで見惚れていたら、田中主任と目が合い首を傾げる。

「どうした、俺の顔に何かついてる?」

じっと見ていたのがバレてしまい、恥かしいやら、どうしていいやらでパニックだ。
何とか上手い言い訳を考えてみたんだけど、私の口から咄嗟に出た言葉はアホみたいなことだった。

「いや、田中主任の髪の毛って柔らかそうだなと思って……」

ギャー、私の口はなんてことを言うの!とセルフ突っ込み。

「じゃあ、触ってみる?」

そう言って下を向き、私の方に頭を近付けてきた。
お酒のせいなのか、田中主任はいつもよりノリがいい気がする。
私の目の前には田中主任の緩くパーマのかかったアッシュブラウンの髪の毛がある。

うわっ、どうしよう。
触ってみたいけど、いいんだろうか。
ゆっくりと手を持ち上げ触ろうとしたけれど、躊躇してしまう。

「どうした?ホラ」

田中主任は、なかなか触ろうとしない私の手を握ったと思ったら、そのまま自分の頭にのせた。
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