甘い唇は何を囁くか
第9章「身体の中の」
この俺に、今、何と言った…?

シスカは女の顔に視線を落とし、呆然と考えた。

まさか、この俺を拒んだ―?

そんなわけがないよな、と頭の中で答えを出し「今、何と言った?」と問い返す。

だが、無情なる台詞が還ってきて、ようやく理解できた。

この女が、自分とのベッドインを拒否した、ということを。

まさか、ここまでヴァンパイアの能力を出していて、拒む事などできるわけがない。

分かっていることだ。

人間の女はみな、餌になる。

この俺の魔力の前に、抵抗など空しい。

どんな女も、全て―俺のものだ。

腕の中の小さな女。

名前も知らない異国の女。

口付けは甘く、やたら濃厚で後をひく。

もっと、もっと欲しくなる。

こんな女、どうでもいい。

そんな無関心な自分ぶることができなくなる―それが分かる。

俺は、この女を…?

いいや、違う。

違う…違わない…のか…?

そうだ、俺は欲しい。

この俺を必要としない人間の女の精が、この魅惑的ではない肉体を服をはぎ、下着の中でどんな秘密が隠されているのか暴きたい。

乱暴なまでの支配欲がふつふつと湧き上がるのを感じる。

まさか―!

シスカは女を冷ややかに見遣るよう努力して目じりに力を込めた。

何よ、と小さく怯えた声を出す。

ぞくりと、背中を電流のようなものが奔り抜けた。

嫌がろうと、関係ない。

このまま、ここでだってかまわない。

気がつけば、妄想の中で女を乱暴に犯すさまを思い浮かべている。

泣こうが、喚こうが知ったことか。

シスカは女に背を向けて、微かに首を振って息を深く吐いた。



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