身代わり王子にご用心




「映画、お好きですか?」

「はい。あまり観たことはありませんけど……」


桂木さんの問いかけに、単なる世間話と気楽に答えた結果が……。




「暁、久しぶりだな! よく来てくれた」

「武司(たけし)こそ初監督作品の完成、おめでとう。よくやったな」


S市としては小規模な市民会館の小さなホールで、桂木さんが会ったのは同年代の男性。無精髭が生えていて、栗色のくせっ毛が鳥の巣に見えたくらいボサボサ。


よれた灰色のスーツにノーネクタイで白いシャツを着ただけの、ずいぶんラフな格好。赤い縁の眼鏡の奥に見える目は、嬉しげに弧を描いてた。


2人はがっちり握手をしたまま、何やら昔話に花を咲かせている。入り込めない雰囲気があるから、離れすぎない程度に周りを歩いてみることにした。


桂木さんが連れてきてくれたこの会場には、大きなスクリーンが設置されていて。折りたたみの椅子が並べられている。


広さや設備が体育館を思わせるホールだから、何だか文化祭の映画上映会って感じがした。


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