TRIGGER!






 風間が彩香の部屋を訪ねたのは、それから二週間が経った夕方の事だった。
 相変わらずスーツを着て、髪型もバッチリ固められている。
 夕方だというのに、ネクタイを緩めてもいない。


「何か用か?」


 玄関の壁にもたれ掛かり、腕組みをしながら彩香は言った。
 正直この二週間、風間はおろか峯口の事も思い出さなかった彩香。


「社長から、仕事の依頼です」
「仕事ぉ?」


 彩香は聞き返した。
 もうすっかり、昼過ぎに起きて夜になると下の『BAR AGORA』に飲みに行くというのが日課になっている彩香。
 今夜も、シャワーを浴び終えてこれから出掛けようとしていた矢先だ。
 明日からまた何処の工事現場で働かされるか知らないが、朝早く起きられるかどうかが心配だ。
 でもまぁ、タダでこんな豪華なマンションに住ませて貰っているのだから、たまには仕事をしてやってもいいかという気持ちにもなる。


「分かったよ、明日何時からだ?」


 だから、ここは素直に言う事を聞いてやろうかと思ったのに。


「これからです」
「・・・・・・」


 たっぷり五秒の沈黙。


「はぁぁ!? これからぁ?」


 ちょっと待てよ、あたしゃこれから下のオカマバーに・・・と、言おうとしたのだが。
 有無を言わせない風間。


「出掛けるので、早めに着替えて下さい」
「ちょっと待てって言ってんだろ! 何処に何の仕事しに行くんだよ!?」
「今回はまぁ、楽な仕事です。私が同行しますから、見学のつもりで一緒に来てください」
「答えになってねぇな。まさかどっかのクラブのホステスが足りねぇとか言うんじゃ・・・?」
「彩香さん」


 少しだけ呆れたように、風間は彩香を見下ろした。
 この風間という男も、ジョージと同じ位の身長がある。


「間違っても客商売に、あなたを使う気はありませんから」
「何だとぉ!?」


 彩香自身、客商売がやりたい訳ではないのだが・・・こういう言い回しをされると、それはそれでカチンとくる。
 とにかく着替えろと、風間は重ねて言った。
< 20 / 92 >

この作品をシェア

pagetop