グッバイ・メロディー


これまでのこと、これからのこと、本当に真剣に話すんだね。

とても大切そうに、話すんだね。


特に、トシくんがバンドやみんなに対してどういう想いを抱いているのか、いままでちゃんと知る機会ってほぼなかったから、夢うつつで聞く彼の言葉は幸せな子守唄みたいで。


「洸介に見つかった瞬間、俺の人生まるっと狂わされたな」


トシくんがどこか嬉しそうに、冗談めいて言った。

笑ったこうちゃんの肩が小さく揺れて、乗っけている頭にかすかな振動が伝わってくる。


「あんなベース弾いてるほうが悪い」


わたしも笑って、「たしかにかっこよかったもんねえ」と寝言のような相槌をうつと、いきなりむぎゅーと鼻をつままれた。

こうちゃんはなんでそうやってすぐにやきもちをやくわけ!


ドアがノックされたのは、ちょうどそれくらい。

完全に目が覚めてしまったわたしがこうちゃんの鼻をつまみ返して、その様子を見てあきれたトシくんが苦笑して、半田兄弟は相も変わらず同じ顔で寝ていて。


「洸介ー、きっちゃーん、もしかして起きてるの?」


遠慮がちに開いたドアの隙間からひょこっと出てきた顔はいつも通り美人だけど、やっぱりどうにも疲れているようで、看護師さんの大変さをひと目でこれでもかというほど思い知る。


夜勤明けの清枝ちゃんに会うのってかなり久しぶりだ。

いつも始発くらいの明け方に帰ってくるなり、たぶん寝室で眠ってしまっているから、わたしがこうちゃんの部屋にお泊まりした日でも顔を合わせることってほとんどないのだ。

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