グッバイ・メロディー
「条件があったほうがいいの?」
「だからいいというか、これは契約なんだってハッキリ思えたから。ほかはなんかぼんやりしてた」
それは、ぼんやり生きているわたしにはぜんぜんわからない感覚。
条件なんてないに越したことないじゃん、ととっさに思ってしまったこと、こうちゃんに言えないな。
こうちゃんは名刺を無造作にテーブルの上に置き、こちらをふり向くと、膝立ちしたままだったわたしをカーペットの上にすとんと座らせる。
「これからちょっと忙しくなるかもしれない」
そしてまじめに言った。
「話、受けるの?」
つられてわたしもまじめな声になってしまう。
「やってみる。話聞いたらけっこうおもしろそうって思ったし」
いつもなににも興味がなさそうな、色をあまり持たないこうちゃんの瞳。
それが、こんなふうに強烈にまたたくなんて。
たとえば、直おじちゃんが死んじゃってなくても、ギタ美ちゃんを残してくれていなかったとしても、こうちゃんはいつか絶対にギターを手に取る運命だったんだ。
そうしてきっと、6本の弦と甘い恋に落ちていた。
そんなふうにさえ思ってしまう。