不機嫌主任の溺愛宣言
その男、葛藤

(1)


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福見屋デパート大宮店、地下食品街。PM3時。
いつものように現場責任者である前園主任は売り場をくまなく巡回する。

トラブルは起きていないか、客層に変化はないか。従業員の接客、商品の品質に問題は無いか。売り場は汚れていないか、通路の安全性は確保されてるか、etc……

スクェアフレームの下の切れ長な目を光らせひとつひとつの店舗を見てまわる姿は厳しく、従業員にとっては、この“ミスター不機嫌のチェックタイム”は思わず背筋を正し固唾を飲んでしまう恐怖の時間であった。

けれど、いつものように端から各店舗を見ていた忠臣は不自然な場所でユーターンをする。

【Puff&Puff】の手前で足を止め、ぎこちなく回れ右をして去っていった姿を、幸い忙しなく働く従業員達は気付いていなかった。ただひとり……姫崎一華を除いては。

――まただ。これで3日連続、絶対気のせいなんかじゃない。

天使のような笑顔で接客をこなす一華の眉間に、一瞬しわが寄る。すぐさま表情を元に戻したけれど、彼女の胸は確信してしまった不満が爆発しそうに渦巻いていたのであった。


初めて抱きしめられたあの夜以来、忠臣の態度はあからさまに変わった。送迎の車内、やっと最近は柔らかくなってきた表情はまた以前のような堅いものに変わり、会話までぎこちないモノに逆戻り。それどころか、車の窓は常に開けられ心なしかカーステレオの音楽までボリュームが上がっている。まるでふたりきりの密室を嫌うかのように。

忠臣にどうかしたのかと尋ねても『何も無い』と返って来るだけ。なのに、彼は店での巡回の時まで明らかに一華を避けているものだから、彼女の不満が募っていくのは当然だった。

絶対に忠臣さんは私を避けてる。気のせいじゃ無い。

理由も言わずそんな事をする恋人への憤慨はもちろんあったが、それと同じぐらい一華はショックも受けていた。

なんせ、抱き合った日の翌日からだ、忠臣の態度に変化が訪れたのは。原因はそこにあるとしか思えない。

……彼が想像していたより抱き心地が太かったとか?逆にもっと胸のボリュームを期待してたのにガッカリしたとか?まさか、忠臣さんがそんな事。じゃあ……私、もしかしてあの時、汗臭かったとか……?あ、ガーリックライス食べた後でニンニク臭かった?でもそれは忠臣さんだって一緒に食べたんだし。

あれこれ原因を考える度に、一華の胸には痛いショックが降り積もっていく。彼女だって年頃の女子なのだ。人に、それも恋人にあからさまに避けられれば悩むし傷付く。

けれど、元来気が強く行動派な一華。胸のモヤモヤを振り切るように顔を上げると、客足が途絶えた隙にトイレへ向かい忠臣にメールを打った。

『お話したい事があります。今夜仕事が終わったら駅前のカフェに来てください』

こんな馬鹿みたいなことでグズグズ悩むなんて嫌。直接問い詰めてやるんだから。

爆発しそうな恋人への不満を抱えて、一華は「忠臣さんの馬鹿!」と小声で怒りながらメールの送信ボタン押した。
 
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