星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



「お疲れ様です。
 託実さん、こんな時間にどうかされたんですか?」

「宝珠姉さんか、高臣さんは居る?」



父方の従姉妹である宝珠姉さんと、そのフィアンセである高臣さんが
俺たちの所属する事務所を仕切っているボス。



「会長、社長共に奥の会長室にいらっしゃると思います。
 由岐(ゆき)の件で、打ち合わせされてると思います」


由岐の正式名は、
由岐和喜(ゆき かずき)。

Ansyalにとっては、
先輩となる事務所のソロアーティスト。

お箏を引き語りしながら幻想的な独特のサウンドを奏で続ける
その先輩も今は、
隆雪が入院する病院で意識がないまま眠りについていた。



「有難う。
 会長室、訪ねてくる」


事務所の受付を手伝ってくれる、
俺の学生時代からの女友達、堂崎美加(どうざき みか)に軽く手を振ると
俺はそのまま奥の部屋へと向かっていく。


ドアをノックして部屋の中に入ると、
由岐さんの治療経過などを説明しに事務所に立ち寄ってる裕兄さんの姿を確認した。


「失礼します」

「託実くん」
「まぁ、託実」


同時に振り返って俺に声をかける、宝珠姉と高臣さん。
そして遅れて、視線を投げかける裕兄さん。


「お話し中すいません。

 明日の夜なんですが、インディーズ時代からお世話になっていた霞ヶ丘のマスターが
 急きょ、Ansyalにシークレットでの参加を打診してきました。

 何度も俺たちのサウンドが大好きな、
 車椅子の女の子がボランティアを通して来るらしくて……」



そこまで言葉を続けて、俺は口を噤(つぐ)む。



……理佳とその少女が重なったから……



そんな理由では、
宝珠姉さんたちの許可は得られないかも知れない。




「そう。
 霞ヶ丘の森田マスターからは事務所にも理があったわ。

 森田さんの趣旨も連絡貰ってるから、
 Ansyalのメンバーがやりたいなら、事務所は黙認するわよ。

 あくまでもシークレットって言うことを忘れないで」

「あぁ」



事務所側の許可を取り付けた後は、
そのままメンバーに電話を入れる。


日付が変わりそうになる頃、
雪貴以外のメンバーとは全て連絡を取り終えるものの
雪貴だけは電話に出ることがないまま深夜を迎えた。



ふと脳裏に浮かんだのは、
携帯が繋がらない場所=隆雪の眠る病室。




アイツら兄弟の時間を邪魔したくなくて、
雪貴に連絡が出来ないまま朝を迎えた。



シークレットライヴ当日の朝、
早朝から隆雪の病室を訪ねて、アイツのベッドに持たれるように
眠りについている雪貴を見つける。



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