Caught by …
隣の彼


 冬の朝はなんだか嫌いだ…ったはずだけれど、私は背中に伝わる温もりに体温が異常に熱くなっていて、冷たい空気がちょうど良い。

 昨夜、ソファーで寝てしまった彼。そのままにしておこうと思ったが、それじゃ可哀想かなとレイの肩を揺さぶって起こした。

 そんな善意に彼は不機嫌な顔で起きると、無言で立ち上がり当たり前のごとくベッドの中に潜り込んだ。やれやれとため息をついた私。しかし、レイが布団から顔を出して、やはり不機嫌に眉間に皺を寄せて「来い」と一言。「ん?」と私は首を傾げる。

 立ち尽くす私を見つめる彼。…いや、睨むと言った方が正確だ。もう一度「来い」と言うレイに逆らえる訳もなく、とりあえずベッドの傍まで行った。

 緊張しているのがバレないように「なに?」と問いかける。布団からレイの手が伸びて、私の手を掴んだ。その彼の眼差しがあまりにまっすぐで、それだけで胸が苦しく、息も苦しくなった。

「…来いよ、セシーリア」

「で、でも、私」

「セシーリア、余計なことなんて考えるな」

 “お母さんのこと絶対裏切らないのよ”

 両親は本当に仲がいい。周りも認める理想な夫婦。私だって、いつかあんな風に生涯を共に過ごせる人と…と憧れている。

 けど…私はそんな資格ない。

 彼の手を払いのけることも出来ない。

 レイは私の中の葛藤を見透かすかのような目で、私の名を呼ぶ。

「何もしない、だから、早く。俺の気が変わらない内に」

 実際に私たちはお互い背中合わせに寝た。聞こえるのは二人の息づかい。感じるのは二人の体温。それだけだった。
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