【完】キミと生きた証
毎日、夜になると、仕事帰りのお母さんが来てくれる。


・・・発作が起こるのを見越して。


「ちーちゃん、ただいまー」


「おかえり。買ってきて、くれた?」


「うん。ピンクにしたよ。可愛いでしょ。」



ありがとうと受け取った、箱に入ったマスク。


顔まで浮腫んできたから、隠したくて。



「・・・ちゃんと、隠せてる?」


「うん。でも今は苦しいから、外しときなよ。」


「わかった。」




心不全。


もう心臓の機能が追いつけてない。


強めの利尿剤を飲んでも、全然浮腫みがとれない。


ご飯そんなにたべてないのに、体重は増えるし・・。



入院してるのに、悪くなるばかり。



ねぇ、お母さん、本当のこと言って。




なすすべが無いから、手術も強い治療も、何もしないの?



今を生きるためだけにここにいるの?



「あたしって・・ターミナル・・ケア・・?」



「え?」



お母さんが目をまんまるにして見つめた。



「そんなわけないでしょ。今は、検査結果見ながら、治療法考えてるんだよ。」


「そっか。」



2月から、ずっと・・・?



・・・何を信じていいのか、わかんないよ。



でも、何も知りたくない。


あたし、余命すら、知らなきゃよかったって思ってる。



生きれる日常に、不満はないよ。


”やり残したこと”なんか、考えたくもない。



「・・・っ。」



胸が痛い。


息がすえない。


お母さんがナースコールを押してくれる。


機械の音はうるさかった。



・・・苦しい。




ばたばたと駆けつけるドクターと看護師さんは、あたしの腕に注射を打つ。



かすむような視界の中、まわりにはこんなに、人がいる。



どうして、あたしひとりなんだろう。



”もっと生きたい”なんて、こんなに強く思ったことは無いでしょ?



羨ましい・・。


・・生きたいよ。



胸の痛みが解放されていく。



あたしを助けてくれる、このひとたちですら、羨ましくてたまらない。



そんなこと、思う自分が憎らしい。





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