最も危険な  ルームシェア
π.愛する想い
私は北城華。

今から二十五年前のことだ。

私は鎌倉にある旧家に嫌気がさし

少ない手荷物だけを持って家を飛び出した。

行くあてもなく都内で住み込みのバイトを探した。

私は顔立ちには恵まれ

幼い頃から行儀作法も仕込まれ

特に言葉遣いは徹底的に矯正されて育った。

初めて見るこのにぎやかで騒々しい都会に目を奪われた。

ぶらぶらと通り沿いにある不動産屋へ入った。

「アパートかな?シェアなら安いよ。」

優しそうなご主人だった。

「一人でお借りするとお高いんですね。」

私は経済観念に乏しかった。

今まで買い物すら行ったことがない。

家政婦が身の回りの全てを牛耳っていた。

私の好みも知らない分際で。

電車に乗れたのが不思議なくらいだった。

移動は常にドライバー付きの外車ばかりで

子供の頃から飽き飽きしていた。

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