愛してる
芽生える気持ち

なんだかんだで時間は過ぎ、気づけばお昼をまわっていた。
今日は弁当を持ち合わせてないから学食へ行こうかと考えていると、隣の席から声をかけられた。

「ねえねえ咲ちゃん、今日お弁当?」

彼女の名前は富岡 香織(トミオカ カオリ)ちゃん。朝の時点で自己紹介は済ませてある。

「ううん、今日は持ってきてないんだよね」

「どーするの?」

「んー、確か学食あるよね?行こうかなって」

と、香織ちゃんの目がキラリと光った。「実はあたしもお弁当忘れちゃってさあ~、良かったら一緒に行かない?」

その誘いはありがたかった。悩んでいたのは、1人で行くのに抵抗があったからだ。

「うん、行こう」



だいたい予想はしていたが、それでも驚いた。食堂も"バカ"みたいに広い。学校の大きさを考えれば納得できるが、こんな食堂は見たことがなかった。

カウンターの上に大きな文字で表示してあるメニューも見るからに種類が豊富だ。ご飯ものから麺類、ピザまである。

何を食べようか悩んでいると、香織ちゃんがこの学食のおすすめは醤油ラーメンだと教えてくれた。
本当はカレーの気分だったが、せっかくのおすすめを断るのは気が引ける。

2人で醤油ラーメンを注文し、ずらりと続く長テーブルの空いてる席に向かい合わせに座った。
授業終わりの生徒たちが続々とやってきて、食堂は一気に賑やかになった。


ラーメンを一口すすって、香織ちゃんに感謝した。確かに、おすすめするだけのことはある。スープは魚系のダシがきいていて、あっさりだけど物足りなくない。ちぢれ麺によく絡む。


「おいしいね」

「でしょー?あたしも1ヶ月前に転校してきたばっかなんだけどさ、初めて食べた時感動したもん」

「えっ、そーなの?」意外な告白だった。彼女もわたしと同じ"新入り"だった。「1ヶ月かあ……慣れた?」

「全然。1ヶ月じゃ慣れないよ。この学校広いしさー、よく迷うよ」

「確かに……。わたしも5回くらい転校してるけど、慣れるのってけっこう時間かかるんだよね」

そこで香織ちゃんがすすっていたラーメンを戻しそうになった。

「5回!?」

香織ちゃんの驚き様にわたしも驚く。「うん、そんなに驚くことかな?」

香織ちゃんが納得したように言った。「だからそんなに落ち着いてるのかー。なるほどね」

ーー 落ち着いてるのかな、わたし。

「確かに慣れてるってのはあるかもしれないけど……それでも毎回緊張はするよ」
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