空のギター

元気の源

「──なぁ豊島ぁ、頼むから音楽部入ってくれよ。君が入ってくれれば我が部の華になるんだよ!乾いた砂漠に降り注ぐ恵みの雨になってくれぇー!!」

「非常に申し訳ないんですがお断りします。俺、陸上一本でやっていきたいんで。第一、仕事と学校は別ですもん。」



 紘はといえば、陸上部に所属しているにも関わらず、音楽部の部長から激しい勧誘を受けていた。口論じみた勢いで廊下を右往左往する二人を、この学校の生徒達は何度も目撃しているだろう。しかも今回、紘は“華”という単語に酷く嫌悪を感じた。俺は女じゃねぇんだよと叫んでしまいたいが、グッと堪える。



「そんなこと言わずにさぁ……ウチの音楽部がピアノやってた子の転校で参ってんの、知ってるだろ?
ピアノ弾ける奴は沢山居るんだけど……豊島、この前音楽番組でピアニストの笠井さんとちょっと共演してたじゃん?連弾っつーの?僕、あれ見てほんと鳥肌立ってさ!ウチの部に入れなきゃ気が済まないって思ったんだよね!!」



 熱意の籠った言葉の嵐に、紘は少しだけ反応する。邪魔者を振り切るように歩いていた足が止まり、顔が後ろを向いた。

 ──息を吸う音が、スウッと響く。
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