ハロー、マイファーストレディ!
Ⅲ、計画か罠か 

■ 熱いキスは成功の予感


「はっは、はははは!ひぃ、ひぃ、もう苦しいわ。」

議員会館の俺の部屋に戻ってから、かれこれ15分。
その間、透は文字通り腹を抱えて笑い続けている。

「透、いい加減にしろ。」
「ひぃ、だって、あの狸の顔!あの場で笑い転げるの我慢するの大変だったわ。」
「確かにな。」

先程まで、透と俺は上階にある横井の部屋にいた。
他でもない、奴の娘との縁談を断るためだ。

「しかし、悪い男だな。しれっと、甘い顔であんな嘘を吐くんなんて。」

さっきの横井の部屋でのことを言っているのか、それとも数時間前の囲み取材のことを言っているのか。
いずれにしても、褒められているのかは微妙なところだ。

「迫真の演技だったろ?これでも、昨日、大川を相手に練習したんだ。」

昨日、俺は一日所用で地元に帰っていた。
大川は計画に気乗りしないなどと言いながらも、意外に厳しいダメ出しをしてきた。
良くも悪くも、職務には忠実な男である。
記事が今日掲載されることは知っていた。イベントでの囲み取材も、全ては計画通りだ。
そもそも、雑誌社に情報をリークしたのは透である。

「ホントよく言えるわ、あんな台詞。演技だとしてもだ。」
「ああ、まあな。」

俺は、自分で言った言葉を頭の中で再生した。

『彼女は、私の大切な人です。』

記者やテレビカメラの前で、堂々と宣言をした。やや、照れたような表情で微笑んだのも全ては、計算通りだ。

何を置いても、俺の方がすっかり彼女に惚れ込んでいると思わせる必要があった。

これだけ本人の口からアピールしておけば、仮に横井の娘との噂の一つや二つ流れたところで、世間には相手にされないだろう。
これ以上の、ごり押しは勘弁だ。

報道を見た横井から呼び出される前に、奴にアポを取った。
あとは、丁重に縁談をお断りして、しおらしく詫びただけ。
政界の大物といえども、すでに世に出てしまったスクープは隠せない。

横井は終始苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、最後は笑顔で握手を求めてきた。
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