続 音の生まれる場所(下)
Father
(はぁ…気が重い…)

駅から家までの道。もの凄く遠く感じる。いや、正確にはもっと遠ければいいのに…と思ってる自分がいる。

「送ってく!挨拶もする!」

そう言ったおかげで、坂本さんは急遽、誕生祝いと挨拶を兼ねたケーキを用意した。
その箱を持って歩く道。私はずっと溜め息ばかりをついていた。

「なんでそんなに緊張してるの?」

ちっとも動揺してない彼。一体どんな神経してるんだろう。

「どうして緊張しないんですか?」

逆に聞く。普通はもっとハラハラするもんじゃないの⁉︎

「どうして…って…あ……」

彼の視線が道の先を見て止まる。何かあったのかと思い、前を向いた。

ドキッ!!

「お父さん…」

門の前で腕組み。ヤバい。あれは半分怒ってる時のポーズ。

「お父さん?じゃあ挨拶しないと…」

スタスタ…歩いてく。

(ひゃー!ま…待って!坂本さんっ!)

「こんばんは」
(ひっ!もう話しかけてるしっ!)

彼の後ろで顔引きつる。ジロリとこっちを向いた父の顔に、青筋が立ってるように見えた。

「誰だ君は?」

ドスの効いた声。お父さん…怒らないでぇ…。

「坂本 理と言います。真由子さんと同じ楽団の…」
「おおっ!あのトランペットの人か!!」
「へっ…⁉︎ 」

コロッと変わる父の態度。一体何があったって言うの⁉︎

「その節は真由子が大変お世話になりました。いい演奏を聴かせて頂きまして、父親冥利に尽きます」

どうやら二重奏のことを言ってるみたい。父は相当感動して、楽団員全員にお礼を言って回ってたくらいだから…。

「あの時はお姿を拝見できず、お礼も言えませんで…失礼しました…」

何故か頭下げてる。困った顔する彼が「どうか頭を上げて下さい」と声をかけた。


「…ところで…どうして坂本さんが家へ?」

(今からそれ聞くの⁉︎ フツウは先にそっちでしょ⁉︎ )

思わずツッコミ入れたくなる。坂本さんの顔が笑ってる。そこ、笑いどころじゃないって…。

「僕…真由子さんとお付き合いさせて頂いてます。今夜はドイツの友人の送別会で一緒に食事させて貰ってて。お父さんが誕生日だと聞いたもんですから、挨拶を兼ねてお祝いに伺いました」
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