続 音の生まれる場所(下)
さらさら…とまるで文章読んでるみたいに言葉が出てくる。

(この人って…サギ師か何かみたい…)

呆れた顔で彼を見てると、お父さんがガシッと両手を掴んだ。

「そうですか。それはどうもありがとうございます!」
「えっ…⁉︎ 」

唖然…。

(お父さん…それって交際認めるってこと…?)

「真由子!」

ビクッ!!

「何してるんだ!早く坂本さんを家に通しなさい!母さんに酒でも出してもらって…」
「えっ…あっ、でも…これケーキ…坂本さんから…」

箱見せる。手に持ってた箱を見て、父が彼を振り返った。

「お気遣い頂いて、ありがとうございます!」

深く一礼してる。やめよーよ。

「い、いえ…おめでとうございます。これからもどうか、お元気でご活躍下さい」

ニッコリ…?…坂本さん…調子良すぎだって…。


「真由子!ぼんやりするな!中に入って、皆でそのケーキ早く食べよう!」

お父さんったら、スゴくはしゃいでる。こんなふうに喜んでるの、私、初めて見た気がする…。

「…うん!お母さんにお茶入れてもらってくる」

駆け出して中に入る。後からやって来る父と彼。お茶が入るまでの間、静かに二人で話し込んでた。



「お待たせしました」

母がお茶を乗せたお盆を持ち、私はケーキを乗せる皿を持って部屋に入る。
我が家で唯一の和室。客間として使われてる割に、殆どお客さんが来ないのが特徴。

「すみません…遅くにお邪魔して…」

今更ながら恐縮してる。母も「いえいえ」と笑って受け流した。

「…お父さん、いい誕生日になりましたね」

父に話しかける。フルーツゼリーの乗ったムースを口にしながら、満足そうに父が頷く。

「坂本さん、今夜は真由子を送って来て頂いて、ありがとうございました…お帰りになる時はどうか気をつけて下さいね」

(来た早々から帰る話⁉︎ お母さん、それってあんまりじゃ…… )

「帰るのか⁉︎ 泊まっていけばいいじゃないか」
「えっ⁉︎ 」
「ちょ…ちょっと、お父さん…」

ビックリするような事を言い出す。彼の顔がマジになっちゃうじゃん…。

「…いいんですか⁉︎ 」
「ええっ⁉︎ 」

ギョッとして彼を振り返った。

「さ…坂本さん…?」
「いや…だって、今、泊まっていけばって言ってもらったからいいのかなって…」
(でも…フツウはそこ遠慮しない⁉︎ )

ココロの声張り上げる。だけど、彼の耳に届く訳もなく…。

「良ければ一泊させてもらえますか。僕、実家遠くて。家に帰ったみたいで嬉しいので…」
「まあそう。なら遠慮なくどうぞ。ご実家だと思ってゆっくりしてって下さい」
「そうだな…じゃあやっぱり酒だな。母さん、酒にしよう!ビール!ビール持って来い!それと真由子、お前はツマミ!」
「ええ〜っ⁉︎」
「ええ〜ってなんだ。お前の彼氏なんだろう⁉︎ もてなすのが当たり前じゃないか!」
「えっ…でも、私達……(さっき美味しいすき焼き食べて来たばっかよ…⁉︎ )」

お父さんのペースにハマる。あれこれ作らされて、部屋に帰ったの、夜中の1時……。
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