体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
第9章 突然の終わり
隣で敦子が、何を言うのかと心配そうな顔つきで綾香の表情を伺い、勇と優は綾香をまっすぐに見た。

そもそも綾香は、本気で優を訴えようなんて考えてはいなかったのだ。結婚の約束を交わしていないのは事実だし、二股かけられて捨てられた腹いせの訴訟なんてばかげているという自覚が、敦子にはなくても綾香にはあった。どう考えても綾香が勝つことはないだろう。こんな案件など弁護士だってうんざりするはずだ。なんてくだらないんだ、と。
ただ綾香は、このままほかの女に優を渡し、自分がポイと捨てられるなんて耐えられなかった。
母親や優の家族を巻き込んででも、もう少し優を自分のもとにつなぎ留めておきたかった。それぐらいの償いはしてくれてもいいんじゃないかと考えていたのだ。

「訴訟なんてしません。勝てるわけないし、そんなことが望みじゃないんです」

それでは何が望みなのか、それを最初から聞きたかったのだと、優と勇が心の中でつぶやく間もなく、敦子が口をはさんだ。
< 204 / 324 >

この作品をシェア

pagetop