猫系男子の甘い誘惑
あの日以来の
 更衣室に入った倫子は大きく息を吐き出した。親族はまだ控え室にいるし、それ以外の招待客は大半が二次会に流れていくようで、更衣室にいるのは倫子一人だった。

(……終わった)

 誰もいないからこそ、心おきなく息をつくことができる。これからも、敦樹の姿を社内で見かけることはあるだろうが、心を乱されることはなさそうだ。

 ほんの数ヵ月前までは、復讐だなんだと言っていたのが馬鹿みたいだ。今は、こんなにも落ち着き払っている。

 借り物のドレスをケースにしまい、家から着てきたカットソーとスカートという格好に着替えた。ジャケットを羽織り、荷物をまとめて外に出る。いつもより少し派手目な服を選んでいるから、披露宴用のセッティングでもさほど浮いて見えないはずだ。

「遅いよ!」
「帰ったんじゃなかったの?」

 男性側の更衣室の前、手持ちぶさたそうに立っていたのは佑真だった。彼もまた、スーツではなくてジャケットにジーンズという格好だ。

「なんであんたまで着替えてるのよ」
「だって、俺だけフォーマルだと馬鹿みたいじゃん」

 やっぱりこの子の考えていることはよくわからない。
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