ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
想い、射貫かれて
― ― ― ― ― 

「あとどれくらいかかるかなぁ…。」
「もうかなり近くまで来たと思います。」

 ジアが誘拐されて3日。飛行の魔法を使いながら、ようやくアスピリオと思しきところの近くまでやってきた。

「問題は、アスピリオ、と呼ばれるエリアがどこまであり、どこからどう入るのが最も良いか、というところだな。」
「…そうですね。」

 争いをしに来たのではない。あくまで平和的な解決をというのが陛下たちの願いだった。それもそのはずだ。争いに娘を巻き込んでしまったことをひどく後悔していることは、国民全体が知るところであったし、もう二度と戦争はしないと誓ってもいた。
 
「ウィンを呼び戻しましょう。ウィンならわかるかもしれません。」
「使い魔の能力はどの程度まで育成したのだ?」
「追尾機能を優先に育てました。それと、身を守る術として身体が見えなくなるように透過機能も後からつけましたね。」
「…お前に先読みの力はなかったはずだが。」
「あるはずがないですよ。未来なんて見えません。」

 見えていたら、あの宴でジアから距離を取るなんてことはしなかった。
 思い出しては苦い気持ちになる。そして、その苦さを誤魔化すように口笛を吹いた。ウィンを呼び戻すためだ。

「なぜこの使い魔を育成したのだ。」
「…これから、国のトップになるジアの身が常に安全であるという保障はありません。むしろ、目立ってしまう分危険にさらされることがあると思いました。こんなに早く、ウィンを使うことになるとは思っていませんでしたが。」
「…なるほどなぁ。キースには充分、未来が見えてるわけだ。」
「…どういう、ことですか?」

 シャリアスは小さく笑った。クロハが『ちっ!』と舌を鳴らす。

「ジアちゃんありきで未来を見ているよ、なんだかんだ言ってね。僕にはそう見える。」
「ぴぃ!」

 丁度いいタイミングでウィンが戻ってくる。戻ってくるスピードから考えても、かなり近くまできていると思って間違いないだろう。
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