ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「…でも、そうじゃない魔法使いもいるの。」
「…ジア様を救おうとしていたあの方も、魔法使いですか?」
「え?」
「ランの炎をまともに受けていた…あの方です。」
「…キース、ね。そう、彼もまた魔法が使える人。」

 キースを思い出すと苦しくなる。

「ランも、炎を出すなんてこと、ほとんどしたことがなかったから…加減もよくわからずに…。」
「怪我はひどいと思います。…でも、多分キースは死んではいません。」
「あの炎を、何の楯もなしに浴びても、か。」
「はい。それが魔力を有する者の特殊能力の一つです。異常な回復力。長命。」

 それでも死なないわけじゃない。ただ、あの場にはミアもクロハもいた。医務室も機能している。キースが死ぬ確率の方が低い。

「…他にも魔法を使える人はいるのか?たとえば…姫。」
「あたし…は、中途半端。」
「ジア…様…?」

 ジアの表情が重く変わったことに、シラは気付いたのだろう。

「全く使えない、わけじゃない。ただ、使える、と言えるレベルには達していない。」
「…まだ、わけがありそうだが、そこまで聞くのはおそらく干渉しすぎ、になるのだろうな。」

 ウルアはそっと、ジアの肩に触れた。

「これ以上はいい。そして、申し訳ないがしばらくはランに付き合ってやってくれ。」

 ポンポンと数回、肩が叩かれた。

「…ランが、何を考えているのか、あなたたちは知っているの?」

 ウルアとシラの目を伏せたその表情が物語る。

「…でも、言えないのね。ランが、アスピリオでは一番力がある人、だから。」
「すまない。俺とシラと、ガイは…それでも反対したんだが。」
「ランは言い出したらきかなくて。申し訳ありません。」
「2人が謝ることじゃないよ。それに、ランに訊きたいことをあなたたちに訊くのはずるいわ。…あたしこそごめんなさい。ランに直接訊くことにする…けど、でももう少し黙っておくことにするね。何のいさかいもない状態で、アスピリオを見たいから。」

 アスピリオはハルアトスと違うルールで動いている。ただ、そのルールが悪いものだとは思えない。そしてここに住み、生きる人たちが不幸だとも思えない。だからこそ、この目で、耳で感じなくてはならない。アスピリオがどのように、生き延びてきたのかを。
< 39 / 100 >

この作品をシェア

pagetop