坂道では自転車を降りて

次が彼女の降りるバス停らしい。俺はもう少し先だった。
「降りて家の前まで送ろうか?」
「もう大丈夫。それにすぐそこだからいいよ。送ってくれてありがとう。」
家を知られるのが嫌なのかもしれない。
「あれっ。ねぇ、笠谷なら、本当は自転車だったんじゃないの?」
「。。。。。」
そうだけど、さっきまで、自分でも忘れていたんだ。
「優しいね。ありがとう。」
「また明日、部室で。」
「本当にありがとう。お休みなさい。気をつけて。」
「うん。お休み。」

 その後も公演の余韻は続いた。学内の公演なので観客数こそ、いつもと大差なかったが、回収したアンケートの内容や入部希望の見学者達の反応は、今までと明らかに違った。
 何よりも喜ばしいのは入部希望者が増えた事だ。男8人に女5人、裏方志望も何人かいた。役者志望の中には、脚本執筆や演出に意欲をみせているものもいた。

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