有害なる独身貴族

この日はいつもより風が涼しかったからか、来客数が多かった。

例年暑くなってくるこの時期は人の入りは少なくなるから私と店長だけで回していたけど、これならパートさんも入っていて貰えばよかったと思うくらい。

息をつく暇もないほど忙しかったけれど、不思議なもので、その間体調の悪さはどこかに行ってしまう。
反動のように昼営業の時間を終えた途端に足がしびれてきて疲労感が襲ってきた。


「お疲れ」

「はい、お疲れ様です」


入り口の札を準備中に直して戻ると、ちょうどテーブルにお茶碗が置かれたところだった。

お昼のまかないは、大抵、営業時間後のテーブルで食べる。
食べた後にもう一度掃除をするので、汚すのも気にならないから。

いい匂いだ。食欲無いかもって思っていたけど、匂いに釣られてお腹が鳴る。
慌てて抑えると、店長が嬉しそうに笑った。


「腹減ったろ、食え食え」

「頂きます」

「おう」


最初の器を空にしても、大鍋にはまだ沢山残っている。


「店長おかわりは?」

「つぐみの余りでいい。一杯食えよ」

「そんなに食べれませんよ。はい、一緒に食べないとつまらないじゃないですか」

「お前、時々いいこと言うね。ばーさんの教育の賜物かな」


箸を加えながらお行儀悪く言う店長。

いや、これは体験談からだけどね。
一人で食べる料理なんて、少しもおいしくなかった。
おばあちゃんと暮らすようになって一番嬉しかったのは、温かい料理を皆で食べれることだった。

ああ、思い出すと切ないなぁ。
もう一度おばあちゃんに会いたい。
< 53 / 236 >

この作品をシェア

pagetop