有害なる独身貴族
「……ごめんね。私、誰かと付き合う気ないから」
「数家さんのことがあったからでしょ? でも失恋に効く薬は新しい出会いですよ。お試しでいいですから。ね」
「でも」
「今度、約束ですよ」
無理やり指を絡めて、私が眉を潜めているのに気づいても彼はやめない。
「上田くん、私」
「俺、先行ってます」
「あ、ちょっと」
指を切って、私の返事を聞く前に走って行ってしまう。
引き止める声も届いていないようだ。
困る、困るよ。
お試しとか勘弁して。
“上田はやめとけよ”
思い出す店長の言葉。
うん。やめとくつもりなんですけど、聞いてもらえないときはどうすればいいの?
「……でも頼りなくはないのかな」
予想以上の粘りと強引さに、私はちょっとだけ上田くんのことを見なおしていた。
少なくとも、言われたことに従っているだけの男の子では無いんだよなぁって。