有害なる独身貴族

私っていつもそうだ。
気を使ってるつもりなのに、なんでか人を傷つける。


「……そんなことないよ。それより行こう?」


これ以上話していてもきっといいことない。
私は、先に立って歩いた。

おじいちゃんのことを思い出してしまったからかメンタルが弱ってる。
人の傷ついた顔を見ているのがしんどい。

辛い時、頭の奥底に焼き付けた彼の姿が、いつも私を救ってくれた。
もう条件反射のように、彼の姿を思い浮かべる。

そこに、白い調理服を着た彼の姿が重なった。


もう会える。
どんなに辛いことがあっても、だから今は大丈夫。

早く、片倉さんの顔がみたい。


「あ、待ってください、房野さん」


上田くんは私を追いかけてくる。

駅構内を抜け、開けたエントランスからいつもの通勤路を並んで歩く。
上田くんがなにか色々言っているけれど、頭には全然入ってこなかった。


「ね、来週どうです?」

「え? なんだっけ」

「聞いてなかったんですか? 来週の定休日、良かったら映画行きませんか? 俺、みたいのあるんですよ。
講義あるんで、夜の回になるんですけど」

「あ、定休日はモニター試食が入ってたはず」

「あれって数家さん担当じゃないんですか?」

「今度から一緒にやることになったの」

「へぇ。じゃあ、その次でもいいです。どっか一緒に行きましょうよ」


上田くんは表情がコロコロ変わる。
後輩としてみていた時、それはとても可愛らしく感じたのだけど、今はなんだかすごく疲れる。
彼の感情に振り回されてしまうのが嫌だ。

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