有害なる独身貴族

考え事をしながら事務所の扉を開ける。と、正面に白い肌。


「え?」


思わず目が点になって、体が動かなくなる。


「あ、すんません。まだ着替え中っす」

「え、きゃー! ごめんなさい」


慌てて締めて、ドアにもたれかかる。心臓バックバク。

あまりにも驚いて顔さえ見なかったけど、今の声は多分上田くん。
そうだよ、さっき私より先に入っていったんだから、今着替えてて当たり前じゃん。


「か、鍵閉めてよー」


言い訳のように呟きつつ、そんなこと前に店長にも言われたななんて思う。


「すんません、すぐ終わるからって思って」


両手で顔をおさえていたら、仕事用のシャツのボタンをはめながら上田くんが出てきた。
インナー見えてるよ。それまだ着替え途中って言わない?


「可愛い、房野さん。照れてます?」

「見てないから、見てないから!」

「見られてもいいですけど、俺」


ううう、からかわれてる。
普通、告白された方が優位に立つもんじゃない?

なんでか私と上田くんだと逆だ。私の方が振り回されっぱなし。


「こら、セクハラだぞ、上田」


厨房から声が近づいてくる。
店長が、ペンギンのアイマスクを手に持っていた。
私が、お礼にと買ったものだ。


「店長がそれいいます?」

「いいから、着替えたんならさっさと出ろ。つぐみが着替えられねぇだろ。なあ」

「は、はあ」


私が頷くと、今度は上田くんの首根っこを捕まえて引っ張りだす。

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