好きだと言ってほしいから
囁かれた愛の言葉
 葵ちゃんと平岡くんの二人と別れた私は、逢坂さんの車で彼のマンションへとやって来た。もう二度と来ることはないと思っていたから不思議な気分だ。

 そして、玄関を開けて中に入った瞬間、私は背後から逢坂さんに抱きしめられていた。彼の見た目からは分からない筋肉質な腕が私の胸の前で交差する。ギュッと引き寄せられて、私は彼に体を預ける形になった。

「麻衣……」

 絞り出すような声で名前を呼ばれる。それはとても切羽詰まった声で、私の胸が締め付けられた。

 逢坂さん、もしかして、あなたは私を迎えに来てくれたの? 息を切らして、あの店に飛び込んできたのは、私のため?

「ごめん、やっぱりダメだ……」

「逢坂、さん……?」

「ワガママだって分かってる。だけど俺、やっぱり麻衣は手放せない。麻衣が他の男のものになるのを黙って見ているなんて出来ない。麻衣が俺と一緒にいると安らげないのは分かってた。だけどダメなんだ。君だけは……どうしても……手放せない……」

 そう呟いた逢坂さんに、私はさらにきつく抱きしめられた。苦しいくらいの彼の感触。私の鼓動はさっきからずっと壊れそうなくらいに音を立てている。

 でも……。それは私だけじゃなかった。背中に感じる彼の鼓動も、私と同じくらい激しく脈打っている。

「君を愛してるんだ、麻衣……」

「ウ、ソ……」
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