好きだと言ってほしいから
【番外】それから六年後
 夕方になり少し涼しくなってくると、庭の蝉がうるさく鳴き始めた。そろそろ夏も終わるとはいえ、まだ昼日中はすこぶる暑い。今朝のニュースでも熱中症の注意を促していた。

 私は作り終えたホットケーキをテーブルに並べると、縁側の先に広がる小さな庭を眺めた。少しくらいエアコンを付ければよかったかな。

 壁に掛けられている、昔ながらの大きな古時計がボーンボーンと心地良い低音で夕方四時を知らせる。ほんの少し眉根を寄せたとき、道路の向こうから、キャッキャッとはしゃぐ子供の可愛らしい声が聞こえてきた。

 私はしばしその声に耳を傾けた。

「あら、将太くん、たくさん捕まえたわねぇ」

 隣の家のおばさんの声だ。

 昔、彼女の家でノラ猫が子猫をたくさん産んでしまい、貰い手を探すのに苦労した。結局、彼女の家に一匹、この家にも一匹子猫を引き取ることになった。残りの子猫たちはおばさんの知り合いに貰われていった。

 うちで引き取った茶色いトラ猫は名前をそのまま『トラ』と名づけた。これは私のお父さんが付けた名前だ。あれから六年経った今、すっかり大きくなったトラは縁側でのんびりと昼寝をしている。

「うん! パパが取ってくれたんだ! ぼくのパパ、すごく上手なんだよ! ぼくもあんなふうに取れたらいいのに」

「あらあら」

「将太も上手だったぞ。この一番大きいのは将太が捕まえたじゃないか」

「うん!」
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