キスは目覚めの5秒後に
歌舞伎顔の男
「んー別世界だわ。素敵!」
朝、目覚めと共にカーテンを開けると、澄みきった青い空の下に建ち並ぶメルヘンなビルが見える。
暖色系の外壁に整然と並ぶ小さな窓のあるビル。
歩道の石畳。
道を走る車は全部外車で右側通行。
そう、ここは外国!北欧の国スウェーデンの街、ストックホルム!
窓の外は近代的なビルが建ち並ぶ日本とは違って、絵本の中に入り込んだような景色が広がっている。
昨日の夕方に着いてすぐ、ATMから引きだしたお金を見た時も思ったことだけれど、北欧に来たんだ!と改めて感慨に浸る。
スウェーデンに来たのは留学していた時以来だから、かれこれ六年ぶりくらいだ。
休暇?十日も?長いなあ・・・なんてぶつぶつ言って、眉間にしわを寄せたしぶーい顔の係長から了承のハンコをもぎ取って来たこの一人旅。
ここにいる限りは、忙しない日常を忘れて思いっ切り楽しむつもりだ。
そして、アイツのこともすっぱり忘れて、身も心もスッキリするのだ。
『ごめん。俺、美也子のこと好きだけど、それ以上に大切に思う子ができたんだ』
別れてほしい。そう言われたのは丁度ひと月前のこと。
まだ夏の残暑が続いていて暑い盛りだった。
私とアイツは社内恋愛で、付き合いも三年以上経っていて、もう結婚まで秒読みだね!と周りからも言われるほどに仲が良かった。
私もそのつもりで、ウェディング雑誌を見てドレスとかマリッジリングとか、どんなのがいいかなーなんて、いろいろ想像して夢を膨らませていた。
それに大好きな北欧雑貨も買うのを我慢して、結婚の為にお金を貯めてもいた。
それがまさか振られるなんて・・・。
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