イケメン御曹司に独占されてます
秀明たる所以(ゆえん)
静かな空間に、ただ優しい光が差し込んでいる。
アンティークとも思えるほど古く大切に使い込まれた座り心地の良いソファ。
目の前にはジノリのカップにたった今注がれたばかりの紅茶が、柑橘系の香りを漂わせている。

「ちょっと待っててね」と言い残して、おばあ様が運転手さんと一緒に駅まで来客を迎えに行ったのはついさっきのこと。


『明日うちに来てもらえないか』と会長——おばあ様から連絡がきたのは、昨日滝川さんのところから戻ってきて、野口くんを見送ったすぐあとのことだった。
池永さんに聞いてみないとという私に、『今回のことに秀明は関係ないから』と強引に時間を決めてしまったおばあ様は、今朝十時頃にはうちの前に迎えの車を横付けにした。
そして私は、言われるがままにここへやってきたのだ。


昨日、池永さんはオフィスに戻ってこなかった。
電話をしようかとも思ったけれど、結局できずじまいだったし……。池永さんからもかかってこなかった。

佐藤さんの件はパソコンとスマホの両方のアドレスに詳細を送ってあるから、何が起こったのかは分かっているはずだ。
恐らく、昨日のうちに佐藤さんにも滝川さんにも連絡を入れているだろう。だから仕事に関しては、もうなんの心配も無かった。


今日ここへ来て池永さんに会うのが少し怖かったけど、訪れてみれば当の池永さんは留守だった。
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