恋は死なない。

 忘れ物





それから、和寿はときどき、佳音の工房に姿を現すようになった。

といっても、休みの日にきちんとした休みはなかなか取れないらしく、仕事の合間にちょっとした時間を見つけて顔を見せる程度。
ウェディングドレスの進捗は確認しているのかしていないのか…、佳音がお茶を淹れるのも待たずに帰ってしまうことも多かった。


そうやって何度か会うことが重なっていくにつれて、出会ったばかりの時のような他人行儀な態度も消えていき、打ち解けた親しい友人のように接することができるようになっていった。


幸世とは相変わらずメールや電話での連絡を頻繁にしてはいたが、ときどき和寿が工房に顔を見せていることは告げられないままだった。
幸世の方から和寿の話題が出てくることもなく、和寿もまた、この工房に来ていることは、幸世に知らせていないようだった。


後ろめたさを感じないと言えば、嘘になる。
でも、普段は人気のないこの工房に和寿が顔を見せてくれると、後ろめたさよりも心がホッと和んでいるのが自分でもよく分かった。



その日も、いつものように平日の昼下がり、和寿は佳音の工房へと姿を見せた。

けれども、いつもとは違って、その手には紙の小箱が携えられている。


「今日はゆっくりできそうなので、ケーキを買ってきました」


「………!」




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