恋は死なない。
佳音が何も言わず、驚いたような顔をするものだから、和寿は恥ずかしそうに少し笑った。
「…今までゆっくりできない時でも、ケーキくらい差し入れしたらよかったんですけど。…これじゃ、単に僕が食べたかったからみたいだな…」
「ケーキくらい」と言う割には、ケーキくらいのことで言い訳がましいことを言っている和寿を面白く感じて、佳音もクスッと笑いを漏らす。
「でも、古川さん。ケーキが好きで食べたいと思ったから、買って来たんですよね?」
「え……。いや、あの。……その通りです」
素直に事実を認めた和寿に対して、佳音は声を立ててその笑いを朗らかにさせた。その笑顔を見て、和寿も嬉しそうに息を抜く。
「でも、すみません。ケーキを食べるのは、もう少しお待ちいただけますか?この作業を終わらせてしまいたいので……」
作業台の上にある白い布を前にして、佳音がそう断って針を動かし始める。
「どうぞ、お構いなく。僕はドレスの出来具合を見に来てるんですから」
和寿もそう答えながら、慣れた感じでダイニングのテーブルに腰掛ける。その和寿に、佳音は目をあげてもう一度笑いかけた。
その可憐でいてとても綺麗な佳音の笑顔に、和寿は思わず見とれてしまう。
この憂いのないパッと花の咲くような笑顔を見るためならば、どんな犠牲も厭わず何だってできそうな気さえしてくる。