俺様黒王子とニセ恋!?契約
捕まえたいから追いかけます
浮かれるな。冷静になれ、私。


昨日からずっと自分にそう言い聞かせて、さっきまでは意識せずにいられたのに。
営業部との定例会議で篤樹の姿を目にしたら、鼓動が速度を上げ始めるのを感じて、私は自分を戒めた。


会議室にコの字型に配置されたテーブル。
私の向かい側のテーブルの端っこに座っている篤樹が、この位置からだと遮る物がなく、大きく視界に入り込んでしまう。


発言者の声に耳を傾けながら、篤樹は頬杖をついて配られた資料を捲っている。
そうやって、会議開始からほとんど目線を上げない。


資料を熟読している態度だけど、向かいにいる私を視界に入れないようにしてることがわかる。
そんな篤樹が不自然過ぎる。


静川さんの話を真に受けないようにしていたのに。
もしかして……なんてドキドキしてしまう自分が、あまりに痛くて手に負えない。


篤樹の好みのタイプが控え目な子だというのはいいとして、それが私のわけないじゃない。


静川さんはきっと何か勘違いしてる。
篤樹に告白した子なんか、今まで数え切れないくらいたくさんいるはず。
それだけ分母が多ければ、私のように最後まで勇気を継続出来ずに言い逃げした子だって、何人かはいるだろう。


『守ってやりたくなる控え目な子』

『返事も聞かずに言い逃げしちゃうような子』


それは私のことじゃない。
昨夜、散々自分にそう言い聞かせたのに、篤樹の方が気まずそうだから、気になって意識してしまう。


結局会議開始から終了まで、私はずっと篤樹を観察してしまった。
その間、篤樹は目を伏せ続けて、私を視界の外に追いやったままだった。
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