キミが欲しい、とキスが言う
4.言葉は距離を縮めてく
 新しい朝が来る。それが希望の朝と信じられる人間など、世の中どのくらいいるんだろう。大抵の人間は、夢の世界から現実に引き戻される絶望の朝だと思うのだけど。
 
 それでも朝はやってくる。いつものように朝の支度をしていると、いつものように玄関ベルが連打される。
玄関を開けると、幸太くんが困ったように眉をひそめて佇んでいた。


「おはよう、幸太くん。どうしたの?」

「知らないおじさんがいる」

「え?」


彼が向いている方向は、私からはドアで遮られている。
サンダルを履いて廊下にまで出てみれば、馬場くんが昨晩のように廊下の欄干によりかかっていた。Tシャツに短パン姿の大柄な男の人が缶コーヒー片手に突っ立っていたら、そりゃ幸太くんだってビビるだろう。


「おはよう、茜さん」


しかし本人には変なおじさんである自覚はないのか、右手をひらひらとさせ、目を細める。


「馬場くん……小さい子たちを脅かさないでよ」

「脅かしてなんかない。ちゃんと挨拶もしたし」

「そうなの?」

「おはようって言った、……けど」


幸太くんはちょっとおびえた様子だ。

馬場くんは身長百八十センチは超えているだろうから、百三十センチに満たない小学生には威圧感があるだろう。
私は、「大丈夫、怖い人じゃないわよ」と言いながら、安心させるように幸太くんの頭を撫でてやった。
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