チェロ弾きの上司。
チェロ弾きの上司との秋〜I〜
朝礼後、真木さんのデスクに呼ばれるのが日課となりつつある。
ある日、いつものように仕事の指示を終えると、真木さんが言った。
「そのアザ、ヤケド?」
あたしはここで今日初めて彼の顔を見る。
何となく顔の下あたりは見て話していたんだけれども。
真木さんは無表情で自分の左耳の下を指さしている。
あたしは青くなった。
……ばれた?
真木さんが、あたしの何を指して言ってるのかは、わかった。
……ヴァイオリン弾きに(ヴィオラ弾きにも)できる、アザ。
三神さんにだってある。
このアザが何を意味するのか、知らないわけ、ない……、たぶん。
固まるあたしに向かって、真木さんは無表情で続けた。
「生まれつき?」
「……ええ、まあ……」
そうです。生まれつきなんです!
とまではさすがに言えない。
「そう」
真木さんは興味なさそうにパソコンのディスプレイに目を戻した。
……な、何だったんだ。
心臓に悪すぎる。