浅葱の桜

終わりの刻《沖田side》




「は? さ、佐久の姿がどこにも見当たらない。ですか?」



帰って早々山南さんに呼び出された俺は自室に戻ることもなかったのでそのことに気がつかなかった。



「ええ。昨夜、夕餉の片付けをしているところまでは他の隊士がその姿を確認しているんですけど、そのあとの行方が分からなくて」




そういった報告は律儀にするやつだ。山南さんや他の隊士に何も告げずに屯所を開けるとは考え難い。


しかもこんな宵も深まってきているこの時間に出歩くなど……ありえない。



「一度、部屋に戻ります。何か、なくなっているものがあるかもしれませんし」



万が一、脱走だとしたら。


その責任は俺にある。監督不行き届きだ。


その線が濃厚なのに、心のどこかで信じたいと思っているのは。


俺があいつに情が移ったからなのか?


女が苦手な俺に気遣わせないように頑張っていた奴がそんなことするはずないと信じたいからなのか。


それとも。



あの日、小さな体を震わせながらもあいつからかばってくれた彼女にそんなことができっこないと思いたかったからなのか。



どれにしても、結局は俺の感情論なのだけれど。


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