浅葱の桜
障子を開けた先にはいつもと変わらない俺の部屋があった。
箪笥の中を見てみてもなくなったものがあるようには思えない。
ふと、部屋に置き去りにされた小包に目が入る。
それは俺にも検討のつかない品だ。
屈み込んで包みを開ける。
そこからふわりと甘い香りが舞い上がってこの正体が分かった。
風月堂のお菓子だ。
そういえば俺が今日土方さんのところに行く前に言っていたような気がする。
今日も蜜月ちゃんのところに行ってきますね〜! って心底幸せそうな顔で。
その顔を思い出しただけで思わず笑みが溢れる。
そんな段じゃ無いんだけど。
部屋には佐久のいつも使っている刀が置き去りにされていた。
何処に行くにも必ず持ち歩いていた大切なもの。
夜中にそれさえ持たずに出歩くなんてやはり考えられない。
「じゃあどこ言ったってんだ……?」
ガシガシ髪を掻き混ぜながら考えるけれど、答えは見つからない。
佐久がいた痕跡は残ってるのに、手掛かりと思しきものが全くと言って無かった。
畳の上に大の字で寝そべる。
すると、入口付近でぽたぽたと染みが広がってるのが見えた。
涙……の跡か?
そんなものを俺が落とす筈もないし、他の誰かが勝手に入って来るはずもない。
となると誰のものかは言わずもがなだ。
「佐久……」
お前は一体何処に居るんだ?
「……ぜってぇ、見つけ出す」
この涙の意味を聞くまでお前の事、探し続けるからな。
その言葉は佐久に……いや、美櫻に向けて告げたものでもあると同時に俺自身に向けた決意だった。