リナリア
暗室での告白
* * *

 5月も終わりが近付いてきた。夏らしい厳しい日差しと蒸し暑さが時折襲ってくる。名桜はというと、久しぶりにモノクロの写真を現像するために部室を訪れていた。部室と言っても理科準備室の中の狭い部屋が一つ、暗室になっているだけで、それらしい部室はない。

「名桜。」

 この声は…と思って、おそるおそる振り返ると、レアキャラがそこに立っていた。放課後の人気のない廊下でよかった。特に理科室が奥地にあってよかったと今心底思っている。

「…学校では話しかけないでもらいたいんですけど…。」
「誰もいないじゃん。ところで、どこ行くの?」
「暗室です。」
「暗室?なにそれ、面白そう。行ってもいい?」
「暗いし狭いし、何もすることないですよ?」
「今日は仕事午前で終わったから、もうないんだよね。丁度暇してたから。」
「友達いないんですか?」
「いるけど、みんな部活。」
「私も部活なんですけど。」
「名桜以外に暗室、人いるの?」
「いないですね。予約とってありますし。」
「じゃあいいじゃん。邪魔はしないよ。」
「…わかりました。」

 言い出したらきかない、というのはもう割とわかっている。人目につかない暗室にいてくれるなら、問題はないと思い暗室に案内する。

「ここで何するの?」
「写真の現像です。」
「え、なんで?プリンターじゃないの?」
「あ、えっと、久しぶりにフィルムカメラを使ったので。ネガにするのもやりますけど、前に干してあるネガ…あ、これですね、これから使うのを選んで試し焼きします。」
「これ、カラーで出るの?」
「モノクロです。」
「モノクロ写真、初めて見る。」

 好奇心に満ちた目が、そこにはある。きっと、このひとのそういうところがそのまま演技に生かされるのだと思う。
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