リーダー・ウォーク
名前は

ほっぺたの落ちるような美味しい食事を終えたらおんぼろプレハブに戻り一息つく。
キラキラした世界を見てしまうと余計に自分の生活が惨めに見えてくるから困る。

稟は風呂には行かず壁に背を預けぼんやりと座ったまま携帯をいじっていた。
さっそく先ほどのチワ丸の写真を見て厳選して松宮に送るため。
ご飯のお礼も一緒にしたら自然だろう。

今このタイミングを逃したらたぶん凄く悩みそうだから。

「……押されてハイって言っちゃったけど。大丈夫かなあ」

松宮的にはどうやらただ稟の生活を心配してという訳ではなくて、
この部屋ではなくもう少しまともな所に引っ越しをさせたいようだ。
ここは狭くてペット不可だから
ペット可の部屋に移動させて、チワ丸を預けたいってことか?

「そりゃデートの時もチワ丸ちゃん一緒じゃ大変だもんな」

あの人の場合、チワ丸を家に置いてデートなんてしなさそうだし。

「要するにペットシッターってことかな?まあ、契約内容もそんなもんだしな」

彼から与えられた仕事内容は月に1度のトリミングはもとより、
あの会員になったドッグランへの同行、チワ丸の用品を買う時のアドバイザー
何かあった時の雑用係。そして松宮が忙しい時の為のチワ丸の引受先。

明確な日にちは決めていないため
松宮から連絡があればすぐに指示にしたがって予定をあける。
あける、といってもそんなやることもないのだけど。

「うん。清々しいまでにチワ丸ちゃんのお世話係だ」

でも日給はめちゃくちゃいいんだよね。

そして内心チワ丸と遊べるのは楽しいし、

松宮とも会えるのはほんの少し楽しみだったりして。

引き受ける時のためにも部屋を変えたほうがいいかもしれない。
前は小さかったから音も小さくてすんだけれど、大きくなって
元気に走り回られたらさすがにバレそうだ。

「……でもやっぱりプレハブってヒドイよなあ。これでも月4万5千円なんですけど」

都会の、それも都心となるとなんでも高いとは聞いていたけれど。

見切り発車でここまで突っ走ってきたところは否めない。

彼の言うとおり、私は考えが甘いんだろう。
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