派遣社員の秘め事 ~秘めるつもりはないんですが~
終章 嘘だとわかって、乗ってみました
「十五回、わしは鳴らしたんだがな、蓮」
……お爺様は私のストーカーですか。
丁子の着物を着た祖父、統吉(とうきち)の背中を見て、蓮は祖父の自宅の庭園を歩く。
まだ花は咲いていないが、一面に蓮の葉の広がる美しい池がある。
その中央には、白いドーム型の屋根の西洋風東屋、ガゼボ。
此処で風に吹かれながら、蓮の池を見るのが、祖父の楽しみのひとつだった。
ガゼボへと続く石畳の道を歩きながら、蓮は、昨夜、祖父からの電話に出なかったことで、説教を食らっていた。
「この蓮を見ると、わしはお前を思い出すんじゃ。
泥の中にあっても、それに染まらず、美しい花を咲かせるような娘に育って欲しいと願っていたのに」
突然、嘆く祖父に、 ……なにやら、私が汚れているように聞こえるんだが、失敬だな、と思っていた。
「よりにもよって、稗田の息子と」
と統吉は溜息をつく。
「いけませんか?」
いけませんかってなんだ? と呆れたように祖父は振り返った。