派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 いや、その勝ち誇った顔が嫌だから、言わなかったのに~。

 恨みがましく渚を見上げ、
「……言わせたいんですか」
と言うと、渚は、蓮の前に片膝をつき、

「言わせたいな」
と笑う。

「ちなみに、俺も一目惚れだ。
 ま……口に出すのは恥ずかしいかな」
と言っておいて、赤くなる。

「よし、来い、蓮っ」
と渚が手を広げた。

「だから、犬じゃないんですってばっ」
と照れて言いながらも、蓮は腰を上げ、膝で少し渚に近づくと、その胸にちょこんと頭を寄せた。

 すぐに、なにかが聞こえてきた。

 スマホの鳴る音だ。

 いや、聞こえぬふりをしよう、と蓮は目を閉じる。

 渚にも聞こえてたようだが、その上にクッションを投げて、素知らぬふりをしていた。

 野生の勘か。

 いや、いつもと違う着信音だったからか――。



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